食べる
2022.01.18

本格的な江戸前鮨を多くの人に味わってもらいたい
NY帰りの鮨職人がシャリに選んだ「たかたのゆめ」

予約困難の恵比寿の鮨店「Sushi Bar Mugen」

東京でも屈指のグルメスポットとして知られる恵比寿は、鮨店の激戦区でもある。そんな中で注目を集めているのが、2021年にオープンした「Sushi Bar Mugen」。恵比寿駅近くの路地に佇むビルの2階にある。

カウンタースタイルのお店はバーそのもの。店主の小栗陽介さんは、調理師学校卒業後に出身地の千葉県にある大手回転寿司店で働くのをきっかけに鮨の世界へ。特に江戸前寿司に魅力を感じた小栗さんは、その技術を学ぶため都内の高級鮨店へ。さらに、ニューヨークでミシュラン一つ星を獲得した鮨店で4年ほど修行し、2021年1月に「Sushi Bar Mugen」をオープンさせた。

「独立を考えていた時に、このバーを紹介してもらい、夜遅くしか店舗を使っていないと。それなら空いている時間に間借りして鮨店をはじめようと開業に至りました」

お話を伺ったのは、2021年の10月初旬。この時すでに年内の予約はすべて埋まっている人気ぶりだ。その内容は「昼と夜、鮨12貫とお椀で5000円おまかせのみ」。ひと手間加えた江戸前のネタと旬と鮮度を活かしたネタを合わせて出していく。本格的な江戸前鮨を、たくさんの人に食べていただく。そのために、コストパフォーマンスの高さも追求したという。

シャリ選びに悩み、行き着いた先「たかたのゆめ」

鮨で使われるシャリ(鮨飯)といえば、宮城の「ササニシキ」や、会津の「コシヒカリ」、佐賀の「さがびより」などが思い浮かぶ。しかし、本当にそれでいいのか。開業を機に、小栗さんは様々なお米に目を向けた。そんな時、おにぎり協会のアンバサダーでもある五ツ星お米マイスターの小池理雄さんと出会い、味比べをしていった中で岩手県陸前高田市でのみ生産されている「たかたのゆめ」を知った。

「バランスの良かったのが『たかたのゆめ』でした。粒の主張が強すぎず、粘りも控えめ、シャリとしてちょうどいいと感じました。何よりマグロに負けないバランスの良さがあり、これはすなわちどんなネタにも対応できるということでもあります」

小栗さんのシャリはあえて流行りの赤酢強めの味とせず、ネタに馴染みやすくするように酢をブレンドし、最後まですっきり食べられるよう砂糖は使わず塩だけで仕上げる。小栗さんは、「自分のシャリのイメージに『たかたのゆめ』は合います」と話す。

「海外勤務経験を経て、日本に対する思いもいっそう強くなり、陸前高田市も含め、復興を応援していきたいという気持ちもあります」

江戸前鮨のおいしさを多くの人に味わってもらいたい

バーを間借りしているだけあって、店内にはジャズやHIPHOPなど、BGMが流れる。

「カウンターの鮨店は入りづらいという方も多いのですが、ここなら入りやすいというお声をいただいています。だからでしょうか。若い方にも来ていただけます。中には初めて赤酢のシャリを食べたという方もいて、うれしいですね。多くの人に江戸前の鮨を味わっていただきたいと思っていますから」

鮨通も、どんなものかと来店するケースも多いという。小栗さんは冗談交じりに「最初がバーカウンターなので、どうせちゃんとしたものは出せないだろうと思われがちです。つまり、ハードルが下がる。そこでしっかり江戸前鮨をお出しすることで、やるじゃないかと」と笑いながら話す。目指すのは「おまかせ」だけではなく、「おこのみ」もできる鮨店。鮨の楽しさを店側で制限したくないのがその理由だとか。江戸前鮨は味わってもらえばその良さは伝わる。小栗さんの信念が、そこにあった。

文/中村祐介 写真/坂脇卓也

店舗情報

Sushi Bar Mugen
https://www.sushibarmugen.com/
渋谷区恵比寿4-9-1 2F
yosukeoguri@yahoo.co.jp
070-4039–0649

たかたのゆめについて

東日本大震災による津波で、陸前高田市の農地は甚大な被害を受けました。瓦礫の山に姿を変えた農地を前にして、誰もが農業を諦めかけました。そんな中、日本たばこ産業株式会社が陸前高田の農業の復興に役立ててほしいと新品種「いわた13号」を寄贈。農家に希望が生まれました。この新品種を全国公募により、「たかたのゆめ」と決定。復興に立ち上がった農家達により、大切に丁寧に栽培されています。粘りや食味の良さに定評がある「ひとめぼれ」と、「あきたこまち」に由来し、品種改良を経て開発。東北の気候に適している品種です。
公式サイト:https://takatanoyume.net/

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