
できたての衝撃を、世界へ――ポークたまごおにぎり専門店「ポーたま」清川勝朗さんの挑戦
一つのおにぎりが人生を変えることもあります。清川勝朗さんにとって、それは妻が握ってくれた“できたて”のおにぎりでした。大阪から沖縄へ移り住み、沖縄発祥の「ポークたまごおにぎり」を提供する専門店を立ち上げた清川さん。小さなカフェから始まった事業は、沖縄の家庭の味を世界に広げたいという熱い思いに突き動かされています。おにぎりの魅力と「できたて」へのこだわり——清川さん自身の言葉で綴られる物語です。
沖縄バイク旅で見つけた珈琲
20代後半の頃、バイクで訪れた沖縄で出会いがありました。やんばるの山間にある「ヒロコーヒーファーム」を訪ね、一杯のコーヒーを口にしたとき、その美味しさに衝撃を受けたのです。台風の多い沖縄でコーヒー栽培に挑戦する農園主の姿にも心を打たれました。
それから、大阪から何度も沖縄に通っては、コーヒーの栽培や焙煎の技術、商売のコツ、そして沖縄での暮らし方まで学ぶようになりました。そして2000年、30歳のとき、ついに沖縄へ移住する決意を固めたのです。
小さなカフェからのスタート
移住して2年後の2002年、那覇市内の市場近くに、わずか0.7坪という本当に小さなカフェを開業しました。限られた空間ながらお客様との距離が近いその店で、12年間コーヒーを淹れ続けます。沖縄の日常に根ざした商売とは何かを身をもって学んだ12年でもありました。
やがて40代に差しかかる頃、新しいことにチャレンジしたいという思いが芽生えてきます。長年続けたカフェを一度区切りとし、次なる挑戦の準備を始めました。
妻の“できたて”おにぎりとの出会い
ちょうどカフェの近くで空き物件が見つかったことも後押しとなり、「誰もやっていないことをやろう」と模索する中で思い至ったのが大好物のポークたまごおにぎりでした。調べてみると、日本には一軒も専門店がない。ならば自分がやってみよう——そう決心します。
ポークたまごおにぎり自体は、沖縄の家庭やお弁当で昔から親しまれてきた定番メニューです。しかし、私がおにぎりに情熱を注ぐきっかけとなったのは、妻が作ってくれた“できたて”のおにぎりとの出会いでした。海苔と白飯でポークランチョンミートと卵焼きを挟んだシンプルなおにぎりですが、握りたてはこんなにも美味しいのかと心底驚きました。この感動を県外から訪れる人にも味わってほしい——その一心で、注文を受けてから握る「できたて」にこだわった専門店づくりが始まりました。
試行錯誤の末に見つけた味
もっとも、飲食業といってもお米を扱う商売は初めてです。美味しいご飯の炊き方すら分からない状態で、米の品種選び、海苔の種類、ポーク(ランチョンミート)の缶詰の選択など、すべてゼロからの試行錯誤が始まりました。バスガイドをしていた妻に頼んで観光客に人気のポークたまごおにぎりを各地で買ってきてもらい、一つひとつ食べ比べて研究したんです。ポークランチョンミートの厚み、卵焼きの焼き方、おにぎりの大きさ……最後の一口までポークと卵が行き渡る絶妙なご飯の分量を見つけ出すまで、徹底的に工夫を重ねました。
さらに、一度にたくさんの卵焼きを効率よく作るため、独自の調理法も編み出しました。地道な開発期間を経て、ようやく自分が納得できる味と提供スタイルを確立できたときの喜びはひとしおでした。
行列のできる店、そして多店舗展開へ

2014年、那覇市の市場近くにポークたまごおにぎり専門店『ポーたま』の1号店をオープンしました。最初は1店舗だけできちんとやっていこうと思っていました。しかし、蓋を開けてみれば毎日行列ができるほどの盛況で、近隣から苦情を受ける場面もあったほどです。それだけ多くの方に支持されたということで、有難い悲鳴でもありました。
そんな中、次の展開として思いがけないお話が持ち上がります。沖縄有数の観光地である北谷町のアメリカンビレッジから出店のお誘いが舞い込み、ほぼ同じ時期に那覇空港からも声がかかったのです。さすがに両方同時は無理だろうと悩みましたが、最終的には究極の決断として二つのチャンスに挑む道を選びました。
まず那覇空港に店舗をオープンし、その2ヶ月後にはアメリカンビレッジにも出店。ポークたまごおにぎりは一気に沖縄を代表する観光スポットへと進出を果たしました。個人商店だった事業もこのタイミングで法人化し、スタッフと共により多くのお客様に「できたて」を届けられる体制を整えています。今では沖縄県内にとどまらず、東京や大阪、福岡など県外にも店舗を展開し、沖縄生まれのおにぎりを全国の皆様にお届けできるようになりました。
個人事業から会社組織へ、地域と共に
地元の商店街の会長を任されるようになったのは2024年6月です。地域の発展なくして店の繁盛もありません。まずは街のゴミ拾いをスタッフたちとはじめました。それが広がっていって、今は町の活性化にも力を注いでいます。ポークたまごおにぎり専門店は地域に育てていただいた存在ですから、今度はこちらが地域に恩返ししていきたいという思いで活動しています。
沖縄から世界へ! 目指すは「ポークたまごおにぎり会館」
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