【おにぎりサミット】トークセッション「海外で伸びるONIGIRIを“失速”させないために ―おにぎりは“グローバルフード”になりうるか―」
おにぎりの海外展開は確実に広がっています。一方で、現地に合わせて“変える”べきか、日本の良さを“貫く”べきか――。その分岐点で、現場の実践者たちは何を見て、何を選んでいるのでしょうか
おにぎりサミットでは「海外で伸びるONIGIRIを“失速”させないために ―おにぎりは“グローバルフード”になりうるか―」というテーマでトークセッションを行いました。登壇者はおにぎり浅草宿六 店主 三浦洋介さん、Round One Entertainment Inc. 日本支店 運営企画本部 部長 小林 洋平さん、象印マホービン株式会社 商品企画部企画グループ サブマネージャー 坂本 滉太さん、小池精米店・三代目、五ツ星お米マイスター 小池 理雄さん、「Tokyo Gohan」ATbrothers UG 代表取締役 (CEO) 土屋 亮泰さん、さらもOnigiri Kororin CEO 勝山 雄太さんはビデオで出演してくれました。ファシリテーターはおにぎり協会代表 中村祐介さんが務めた本セッションの様子を紹介します。
シカゴの挑戦:キッチンカーから“卸”へ。

冒頭は、アメリカ・シカゴで「Onigiri Kororin」を展開する勝山雄太さんがビデオで出演。立ち上げ当初はキッチンカーで販売していたものの、現地の冬の厳しさが事業の形を変えたといいます。「冬になると人が来なくなる。ならば、売り方を変えるしかない」と勝山さん。その結果、スーパーマーケットやレストラン、ジムなどへ“卸す”モデルへと軸足を移していきました。 また、現地の人にまず試してもらうための“伝え方”も工夫したといいます。
「まずは手に取ってもらうためにビーガンやベジタリアン向けの豆腐を使った商品など、嗜好に合わせた設計にも取り組み、いわゆるローカル対応を前提におにぎりのメニューを開発しました」
ベルリンの現場:「競合は寿司でもラーメンでもない」
ヨーロッパでの実践として、「Tokyo Gohan」の土屋亮泰さんがドイツでの展開を紹介。同社は2021年にドレスデンで創業し、現在はベルリンにも2号店を構え、2店舗で運営しています。始まりはウイークリーマーケットで机ひとつだったといい、そこから店舗へと歩みを進めてきました。

「おにぎりの認知は上がってきましたが、まだまだ日本食といえば寿司やラーメン。そしてこれらはハレの日の料理。僕たちは“特別なとき”の日本食ではないおにぎりを伝えていきたいと思っています。その点で競合だと思っているのはケバブやピザ、パスタ……つまり10ユーロ以下の“日常食”です」。
現在、ケバブは8ユーロ程度で販売されていることが多く、Tokyo Gohanのおにぎりは1個4〜5ユーロ。2個買うと同じくらいになるので、日常の選択肢として成立するよう設計しているということです。
また勝山さんと同じく土屋さんも、ローカル対応を重視します。「現地の人が“味の想像がつく”食材が大事なので、アボカドやマッシュルームなど、馴染む具材の開発をしています」。そして、来店客の実感として、ビーガンの比率が高いことも語られました。「4人で来ると2〜3人がビーガン、という感覚があるのでビーガン対応は“あれば良い”ではなく“必須”になる、という考え方です」。
ラウンドワンの構想:「本当の日本食」を、日常の場所で届ける

海外でも人気の高い複合レジャー施設ラウンドワン。すでにアメリカ進出は果たしていますが、今後はその中でも日本食を集めたフードホールを展開したいと話すのは日本支店 運営企画本部 部長の小林洋平さんです。
「現地には日本食レストランがたくさんある。でも日本人が食べると『ん?』となることも多々あるんです。だから、ちゃんとおいしいもの、“本当の日本食”を出したい。我々は日本文化を伝えたいし、地元の大衆に日本食を届けたいと考えています。その筆頭がおにぎりだと思います」
小林さんが強調したのは“日本食があること”と“日本人が食べて納得できる味であること”は別だ、という問題意識でした。
宿六・三浦さんによる「ローカル対応はしない」宣言
このプロジェクトに参画するおにぎり浅草 店主の三浦洋介さんは、率直な第一印象を交えつつ、参加の経緯を話しました。「最初は、正直うさんくさいと思った」と笑う三浦さんですが、話を聞くうちに熱量を感じたといいます。「本気で“本当の日本食をアメリカに伝えたい”と言っていた姿を見て、一緒に挑戦しようと決めました」。

一方で、勝山さんや土屋さんが重視するローカル対応について、三浦さんは「ローカライズをかけるとは、みじんも思っていない(笑)」と真逆の姿勢を示します。その理由は明確でした。現在の店舗でも海外からの来店が一定数ある中で、伝えたいのは“日本の素材のおいしさ”そのもの。
「日本のお米、海苔、鮭。塩鮭のおいしさ。日本の調理で生まれるおいしさを、そのまま伝えたい」
三浦さんの考えに「継続購入のためには、ローカライズは必要だと僕たちは考えますが、一方でツナマヨ、鮭、肉そぼろといった日本由来の定番メニューも人気です」と土屋さん。ローカル対応と日本らしさは必ずしも二者択一ではないことが見えてきます。
米の価値をどう伝えるか:品種の違い、ブレンド文化、そして「水だけでおいしい」
議論は「米」へ。中村さんが小池精米店・三代目で五ツ星お米マイスターである小池理雄さんに投げかける形で、日本の米の特徴が整理されました。

小池さんは、海外では“米はどれも同じ”という認識が強いことを指摘します。「品種で味が違う、というのが信じられない人も多いし、寿司店などが米をブレンドする文化にもみなさん驚かいています」。そのうえで小池さんが挙げた日本の米の強みは、極めてシンプルでした。「日本のお米は、水だけでおいしくなる」と小池さん。素材の良さをストレートに体験として伝えられれば、それ自体が強い価値提案になると小池さんは考えます。

この流れを受け、中村さんは「お米のおいしさを知る人もいる。でも知らない人のほうが多い。その間をつないでいるのが、いまの現場の挑戦なのかもしれない」と勝山さんや土屋さんの活動を位置づけました。
炊飯の現実:最大の壁は「水」。ジャポニカ米には“軟水”が要る
最後に、象印マホービンの坂本滉太さんが、海外での炊飯支援の具体例を共有しました。

「パリでおにぎり店を開きたい人から相談を受け、炊飯面で支援しながらテストマーケティングを行いました。そこで浮上した最大の課題が“水”だったんです。ジャポニカ米を炊くなら、軟水は必須で、硬水だとどうしてもパサつきやすい」。しかしヨーロッパでは軟水の確保が簡単ではありません。坂本さんは現実的な対策として「現地では軟水器を使うのが必須。家庭なら浄水・軟水化の機器を使う方法もある」と話しました。
さらに米そのものについても比較を行ったそう。「日本産コシヒカリとイタリア産コシヒカリを比べると、やはり日本産がおいしいという声が多かったですね」。
このセッションで見えたのは、海外でおにぎりを伸ばし続ける鍵が「ローカル対応か否か」という単純な二項対立ではない、という事実です。日常食として継続購入を生むために、価格帯やサイズ、具材量、ビーガン対応、説明の工夫といった“現地の条件”を満たす設計が必要になる場面がある一方で、米、海苔、鮭といった素材や調理の価値を「変えずに伝える」こと自体が強い魅力にもなりえます。そして両者を支える土台として、海外では特に「水(軟水)」を中心とした炊飯環境の整備が不可欠です。現場の具体に根ざした議論から、おにぎりが“グローバルフード”へ進むための条件が、より解像度高く共有された時間でした。
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