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2022.03.31

【特別対談】 「おにぎり浅草宿六」と「おにぎりぼんご」が 考えるお米とおにぎりのこれから

日本人のソウルフードであるおにぎり。東京を代表するおにぎり屋が浅草にある「おにぎり浅草宿六」と大塚にある「おにぎりぼんご」だ。共に長い歴史と多くのファンを持つこの両店だが、おにぎり協会を通じて、初めておにぎりについて語り合った。

 

ファストフードを体現する「ぼんごのおにぎり」、ゆっくり味わいたい「宿六のおにぎり」

 

 

大塚「おにぎりぼんご」の女将・右近由美子さんが訪れたのは、「おにぎり浅草宿六」。右近さんを待つのはもちろん三代目の三浦洋介さんだ。

「おにぎりの話題で呼ばれた時にテレビ局で入れ違いになることはあっても、ちゃんと三浦さんとお話しするのは初めてなんですよ」

おにぎり浅草宿六は三浦さんの祖母が昭和28年に創業した、東京で一番古いおにぎり屋。ミシュランガイドにおにぎり屋さんとして世界で初めて掲載されたお店としても知られる。

「宿六という名前からもわかると思いますが、祖父が仕事もしない『ろくでなし』だったんですよ(笑)。それで祖母が仕方なく始めたのがこのお店です」

おにぎりぼんごは昭和35年に開業。当初は右近さんのご主人が店主として店を切り盛りしていた。

「主人が病気になってから私が女将として店に立っています。もともと新潟から(東京に)出てきて違う仕事をしていましたが、主人と出会ってあれよあれよという間にこういうことになりました(笑)」

奇しくも2人とも、ある種成り行きのようにおにぎりを握り始めたが、おにぎりの愛は深い。右近さんはおにぎり愛の前に、それぞれのおにぎりの違いについて話す。

 

「私から言わせてもらうと、浅草という土地柄からもわかるように宿六さんのおにぎりはとっても上品。ぼんごは大衆のおにぎりですね。大塚って昔は職人さんが多かったんですよ。だからあまり待たせないものが喜ばれるし、急いでおにぎりを食べるようなお客さんたちばかりでした。給料日前はお金がないから味噌汁は頼まない、という人も多かったですね」

 

 

「ぼんごさんはいつも行列で、店内もパワフルで…行くと元気をもらえますよね。宿六はお客さんに長居をしてもらいたいと考えています。あまりせかせか食べないで、ゆっくりしてもらいたいなと。浅草は観光客も多い街なので、コロナ禍でお客さんも減り、対策のために客席を減らして営業するという影響がありました。でもその結果、今はお客さん一人ひとりにしっかり向き合えているとも感じます」

おにぎりを食べるために店内に滞在する時間は長くはない。以前はお客さんと会話をする余裕もなかったという。

 

おにぎりには技術ではなく、気持ちで向き合う

 

右近さんは来店するお客さんの声から、おにぎりを通してやりたいことを見つけていた。

 

「お米を食べないなんていう話もよくニュースで見ますが、うちのお客さんって若い人が多いんですよ。お客さんに話を聞いてみると『美味しいご飯が食べたい』って言うの。それを聞いて、なんだ、若い人もご飯好きなんじゃない! って気がつきましたね。食べたい子たちはいるのにお米が売れない。一体どういうことなんだろうって考えた時に、美味しいご飯を食べさせてくれる店をたくさん作ればいいんじゃないかと思いました」

「すごい。僕はまだそこまで行けないな」と驚く三浦さんに、まだまだ第一歩だとしながら右近さんはおにぎり職人を目指す人たちを受け入れ修行させていると話す。

「今(2022年3月時点)、修行をしている人は3人います。修行期間はそれぞれ違いますが、みんなおにぎり屋を出したいってうちに来てくれています。中にはアフリカでおにぎり屋をしたいと言っている子もいるんですよ。私が教えているのは気持ちです。握る技術はお米によっても違うから私では全てを教えられないけど、食ってみんなで食べたらこんなに幸せなんだよ、という気持ちを教えているつもりです」

 

おにぎりを通して行う復興支援で日本一に

 

右近さんのことを「すごい」というが、三浦さんも自分にしかできない活動を行なっている。それが福島県いわき市のスーパーマーケット「スーパーマルト」での調理指導だ。東日本大震災から11年が経ったが(2022年3月現在)、まだまだ元に戻ったとは言えない現状。三浦さんも「福島だから、という気持ちがある。震災前のように戻れるように、復興のために何かできることがあれば手伝いたいと思いました」と話してくれた。

 

「マルトさんはお惣菜に力を入れているスーパーで、僕もご縁があって指導させてもらっています。全国のスーパーマーケットを対象にした「お弁当・お惣菜大賞」というコンテストがあり、マルトは僕が指導を始めて一年くらいで最優秀賞を獲得し、日本一になったんですよ(「お弁当・お惣菜大賞2021」おにぎり部門最優秀賞獲得)。その時は、本当に美味いものをお客さんに食べさせたい、という気持ちでやると日本一になれるんだなって感動しましたね」

右近さんと三浦さんから若手育成や復興支援と少し目的は違うが、どちらからも技術ではなく気持ちが大切という話を聞くことができた。

 

お米を盛り上げたいという思いと、おにぎり協会への期待

 

さらに米農家への思いを伺うこともできた。新米の時期になると台風が来なければいいのに、と願っているという右近さんは「ないとおにぎりは成り立たないから、命と同じくらいお米は大切です」と話す。三浦さんはイベントなどで生産者と直接会う機会も多い。

「生産者さんの熱意や思いを聞くと、何か役に立てればいいなと思いますね。実際にお店でお米を使うこともあります。おにぎり協会さんが出られた2015年のミラノ万博には僕も一緒に連れていってもらい、おにぎりの紹介をしました。その時も実感したけれど、おにぎりは誰にでも作れる簡単な和食だと思います。形も三角じゃなくてもいいですよね。その簡単さと美味しさが広まればお米の消費が増えたりもするんだと思います」

三浦さんが続けて「おにぎり協会には日本だけじゃなく、世界にもその良さを広げて欲しいですね」と話すと、右近さんも頷いた。

「おにぎりや日本食の美味しさや魅力はわかっているから、海外でお店をやりたいという人はたくさんいます。でもうちに修行に来る人たちも、気持ちはあってもどうしたらいいのかわからないと。『握っただけのご飯を美味しいって喜んでくれた時の顔が忘れられない』という想いだけで、おにぎりの修行をしているけど、その先がわからない。料理の心は私が教えるから、おにぎり協会さんには、おにぎりの良さを伝えていってもらいたいですね」

最近では鮭、タラコ、スジコといった食材は海外でも人気が高く、日本の輸入が減っているという話もある。実際に仕入れがしにくくなったと話しながらも「海外の人たちも美味しさに気がついているけど、それをもっと美味しくしてくれるのはご飯があるからこそ」と右近さんはおにぎりの良さを広めて欲しいと話してくれた。

おにぎりには欠かせないのがお米。お店で出すおにぎりは違っても、共通して思いや気持ちを大切にしているとわかり興味深い。日本食の原点でもあり、どんな食材とも合い、誰にでも作れるのがおにぎりだ。だからこそ、たくさんの思いを込めることができ大きな可能性を感じられるのかもしれない。

 

 

 

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